歴史の暗闇を顧みる時〜木村 一雄

「『闇から光が輝き出よ』と命じられた神は、わたしたちの心の内に輝いて、イエス・キリストの御顔に輝く神の栄光 を悟る光を与えてくださいました。」(Ⅱコリント四・六、新共同訳)

ここでパウロは神の創造の御言葉へと目を向けます。神は私たちを造られ、混沌とした無秩序な神を知らない世界に、 神へ導き至る光を与える事から始められます。その創造の出来事から、パウロはキリストの福音の出来事、十字架と復 活の出来事による新しい創造の出来事へと目を向けていきます。「闇から光が」といわれ、現代を生きる私たちの心の 内に潜むものに光を当てて引き起こすのです。それも、全く神から離れた混沌とした歴史の闇があることを。

私たちの歴史を顧みる時、殊に戦後七十二年の歩みを振り返ると、戦後と言われるけれど「戦前」又は「戦中」とも 言われる様な時代を生きています。イラク戦争が発端となりイスラム国という得体の知れない怪物が生まれ、それを利 用した大国の代理戦争の観を呈しています。日本では、戦前回帰の施策(安保法制)を強行しています。そういった流 れの中で、「駆けつけ警護」という言葉の裏に隠された危険の中で、自衛隊は戦争に巻き込まれる暗闇を抱えています。

「隣人を愛せよ」との聖書の教えからかけ離れつつある現代に向かって、米国の女優メリル・ストリープさんは品位 と愛をもって訴えました。特に、腕に障がいのある記者の物まねをしたトランプ氏を痛烈に非難しました。

「……この様な衝動的に人を侮辱するパフォーマンスを、公の舞台に立つ人間、権力のある人間が演じれば、あらゆ る人たちの生活に影響が及び、他の人たちも同じ事をしてもいいという、ある種の許可証を与えることになるのです。 軽蔑は軽蔑を招き、暴力は暴力を駆り立てます。権力者が弱い者いじめをするために自分の立場を利用すると、私たち は全員負けてしまいます。これは記者にも繋がる話です。報道する力を持ち、如何なる攻撃があっても権力者たちを批 判する、信念のある記者を必要としています。だから建国の父たちは報道の自由を憲法に記したのです。(以下略)」

勇気ある彼女の言葉に感銘を覚えるのです。私たちはもう一度、多様性と寛容を認め合わなければいけないのではな いか。今や戦後世代が八割を超えた日本。負の過去と向き合う勇気を持ち、忘却という壁を打ち破り、事実の風化を防 ぎ、その闇に光を当てていく正義の実践を求める市井の人びとの声の結集が重要な役割を果たすのではないか。