内坂晃著『闇の勢力に抗して』〜 青山 章行

カバー「出版さるべき時機が熟して遂に出版された」というのが正直な実感である。二月末に発刊され、私は座右において味読を重ねた。読回を重ねる毎に、現代の預言者から、この時代や日本社会全般への厳しい警鐘が打ち鳴らされている感をひしと抱いた。それはキリスト者に限らず、国民一般への良心の覚醒を問う時評であり、単なる考証ではない。右傾化状況の著しい現在に必読の書であろう。

 著者は七年前に大阪の聖天伝道所の牧師として復帰されたが、その前は、十六年間、東京の砧教会、稲城教会で牧会をされ、共助会員にも友人は多く、親しい交わりの内におられる。また、清教学園、恵泉女学園での教職経験が長く、その他、「教会と国家学会」の理事等の責任を担われ、更に無教会関連主催の講演活動にも積極的に協力しておられる。本書は著者の第六冊目の著作であり、幅広い活動の中での説教や講話、論評等、約十年分を収録した大変な力作である。

 とりわけ本書では、最近憲法改悪の動きが露骨に強化される中で、平和主義国家日本の基礎を脅かす、闇の勢力の実在を指摘される。ルターが「サタンよ、退け」とインク壺を投げつけた姿が思い起こされる。と同時に戦前戦中の殉教者の姿を紹介する記事の中に、内坂牧師の苦悩を感じとる。

 Ⅰ・Ⅱ部では、「教会と国家学会」の会報を中心として、各集会での政治的、社会的発言や論評が多く集められている。社会への警告を多く発せられることから、「社会派」と決めつけられそうであるが、決してそのように単純に位置づけられるものではない。内坂牧師は、専攻された政治学や教育及び牧会の経験の中で蓄積された姿勢を基に、十戒の唯一神信仰に堅く立ち、一切の偶像礼拝や教条主義を排して、神に対する個人格の応答の姿勢を重視される。

 Ⅰ部でのテーマは、教育基本法改正、南京大虐殺事件、東日本大震災、原発問題、自民党改憲案、天皇制と偶像崇拝、三・一独立運動事件等を中心として展開される。Ⅱ部では靖国問題、狂信的宗教集団、広島長崎平和式典問題等を取り上げ、更に歴史的視点としては日露戦争、従軍慰安婦(性奴隷)問題、竹島尖閣問題、また他に労働者派遣法改正案等々を扱う。安倍内閣の右傾化姿勢と平和憲法の危機的状況を鋭く指摘する。Ⅲ部では、伝道、復活と贖罪の関係、十字架死の問題を中心として諸説教や聖書講解、伝道通信等が収録されている。

日本社会における、自然との一体化という日本的自然主義の精神風土は、個人の自覚のない無責任に繋がり、創造主たる神の御意志とは異なる。そこには個の人格は介在しないと強調される。イエスは、その生前に神の心を「わが心」として生き、十字架の死につかれた。そのように生きられた主イエスこそを神は死から甦らせて下さった。私たちはこの復活の意義を自分の信仰の中心に据えるべきであるとされる。聖書には来世について多く語られてはいないが、イエスの復活の事実は、この世の敗北や死の絶対は最後のものではなく、神の御支配の下にあって、希望を持って生きることができると解き明かされる。闇の勢力が横行する世にあって、その力に抗し、私たち自身も各々に与えられた十字架を担って生きる指針が示されている。
(教文館刊・B6判・四一二頁・三〇〇〇円+税)